第6回 都美セレクション グループ展
Group Show of Contemporary Artists 2017
海のプロセス−言葉をめぐる地図
Process of the Sea – Words’ Atlas
井川淳子 中根秀夫 平田星司 福田尚代
はじめに Introduction
言葉はリアルタイムな活動を支えるツールであり、日々の生活の中で加速度的に増幅しているように見えます。一方で、言葉は過去にも未来にも広く参照点を持ち、私たちの思考を多様にする開かれた世界でもあるはずです。混沌とした日常に身体を預け、日々を思う時間を言葉と共にする。自重すら支えきれない多層化した身体と言葉が、 ついにはその場で崩れ落ちるとしても、またその平原に別の世界が形作られることについて夢想するのです。
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『海のプロセス-言葉をめぐる地図』展は、東京都美術館が主催する企画公募「第6 回都美セレクション グループ展」に通過し、2017 年6 月に中根秀夫、平田星司、井川淳子、福田尚代の4名で開催する展覧会です。1990年代にロンドンの大学院で学んだ中根秀夫と平田星司は、現在の自分たちにとってのエステティック・ライフ(美的な日常)を考える手段として2009 年に展覧会企画ユニットを開始しました。3回目となる今回の企画では井川淳子・福田尚代両氏に参加を依頼し、4人で「言葉をめぐる地図(アトラス)」を描きます。
審査委員のことば
南 雄介(愛知県美術館 館長)
「海のプロセス-言葉をめぐる地図」は、中根秀夫と平田星司の二人の作家による展覧会開催のためのユニット「エステティック・ ライフ」が、井川淳子と福田尚代というほぼ同世代の二人の作家を招いて企画した、4名の作家によるグループ展である。展覧会の趣旨は、中根の筆になる美しいテキスト(プレスリリース)にほぼ尽くされている。抜粋してみよう。
展覧会タイトルの『海のプロセス』は、打ち寄せられたガラス瓶の破片の再生、あるいは時間や記憶の再生産とその物語的構築のプロセスを意味するが、それは繰り返される時間の波に磨耗され形を変えて降り積もる「言葉」のイメージでもある。…… 暗闇、あるいは混沌の中で、4人の作家が広げた「言葉をめぐる地図」をコンパスを携え辿っていく行為は、私たちの内に折り畳まれた記憶の地図を私たち自身が広げ、その地図に割り振られたひとつひとつの記憶の番地を訪ね歩くというさらなる私的/詩的体験を促すだろう。…… 広げられた地図にアクセスする私たちは、自らの身体で新たな回路/道を開き、そのネットワークは言葉を通じて拡張し、連結し、そして私たちの社会をめぐる地図を束ねた「アトラス/地図帳」となることを想像している。
4人の出品作家のうち3人の作品は、いずれも静穏な印象を与えるものである。井川淳子のコントラストの強い様式的なモノクローム写真には、ブリューゲルの《バベルの塔》のイメージが床に無数に撒き散らされている様がとらえられている。平田星司の《海のプロセス》は、海浜で採集された風化したガラスのかけら(海ガラス)によって瓶の形状を再構成している。福田尚代の 《エンドロール》では、死者の遺したことばを筆写した和紙(雁皮紙)が、古いガラスケースの中に海のように広がる。3人の作家の作品は、いずれも海に繋がる要素を宿しつつ、それぞれに確固たる世界を作り出している。
一方、武田多恵子のいくつかの詩を再構成して丁寧に映像化した中根秀夫のヴィデオ作品《もういちど秋を》は、会場の中で唯一、動きと音をもたらす(とはいえ、詩人自身による朗読と、かみむら泰一のサックスの演奏からなるサウンドトラックを除いた、サイレント上映ではあったのだが)。時の巡りを主題とする中根の作品は、展覧会全体の参照点として機能しているようにも感じられた。 三人の作家に内在しているはずの時間性を、顕在化させていたからである。それは、海/ことばの本質でもあるのだろう。
とはいえ、展覧会を見た印象は、「4人の作家が共通のテーマについてそれぞれ考察し制作した作品を集めたグループ展」とも、「あるストーリーに基づいて集められた作品から構成されるテーマ展」とも異なっている。会場を巡っていくうちに、4人の作品世界は重奏しあい、ひとつの緊密な「場」が作り出されていく。この「場」の体験こそが、展覧会を見ることの本質であり、企画者たちの言う「エステティック・ライフ(美的生活)」なのではないだろうか。
第6回 都美セレクション・グループ展 記録集より
(発行: 東京都美術館, 2018年, p.21)
展覧会情報 Information
展覧会期 | 2017年6月9日(金)〜6月18日(日)会期中無休 |
開場時間 | 9:30~17:30(入室は17:00まで) *金曜日(9日、16日)9:30~20:00(入室は19:30まで) |
展覧会場 | 東京都美術館 ギャラリーB |
・JR上野駅「公園口」より徒歩7分 ・東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅「7番出口」より徒歩10分 ・京成電鉄京成上野駅より徒歩10分 |
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観覧料 | 無料 |
主催 | エステティック・ライフ+ |
東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団) | |
企画 | エステティック・ライフ+ |
審査委員 | 大谷省吾(東京国立近代美術館 美術課長) 髙橋利郎(大東文化大学 准教授) 野地耕一郎(泉屋博古館 分館長) 南雄介(愛知県美術館 館長) 山村仁志(東京都美術館 学芸担当課長) |
助成 | 公益財団法人 朝日新聞文化財団 |
協力 | 小出由紀子事務所 |
出品作家 Artists
井川淳子 中根秀夫 平田星司 福田尚代
関連企画 2017年6月11日(日) Event
会場:東京都美術館 スタジオ|入場無料|定員50名(先着順)
1. 映像上映 13:00〜(約80分予定) |
中根秀夫の映像作品『もういちど秋を』(詩:武田多恵子 Sax:かみむら泰一)の音声付きバージョン、旧作映像の上映。配布資料
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DVD- Video作品『Mellow Yellow Project』 を発売中です。 |
2. スペシャル・トーク「海/プロセス/言葉/地図」 15:00〜16:30 |
梅津元(埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学) 芸術学を専門とする梅津元氏を招き、本展のテーマから触発された思考を自由に語っていただきます。また、梅津氏が手がけた展覧会や著作等を紹介し、展覧会の企画についても議論します。 |
トークのレジュメを公開しています(なおこの版は公開用として講演後に修正・加筆訂正されており、当日に配布されたものとは異なります)。